学園には、諸々の事情により一般生活を送れなかった学生たちを保護し、日本の一般常識や社会倫理を教える施設がある。
対象は、ダークネスとかかわり深く育ってきたものや、闇落ちしたもの。または戦争区域などで育ったものも含まれる。
普通に育っていれば培われる協調性や、社会性などが事情により未発達な子供たちの保護。またダークネスの被害によって深い心の傷を受けた子供のケアも役目である。
日本での普通の学生生活を営むことが難しい子供たちは、数年間、ここでの生活したあと学園へと編入が許される。
しかし、ここで保護されている間にも闇堕ち者は出ることがある。
* * *
―――悲鳴が響き渡る。
悲鳴、といっていいのだろうか。それはもはや獣の叫びで。聞きつけた教師は、あわててその声の主を渾身の力で、引き離す。
「う…いはわるくない!わるくない!!ばか、かえせ!それ、ういのだもん!!」
大人でも気を緩めれば振り払われそうな力で、少女は暴れている。手加減というものがない。手加減を知らないのだ。どこまでやったら、取り返しがつかないか…と言うタブーが少女にはなかった。
やっと10歳になったぐらいだろう。ガリガリに痩せていて目ばかりが大きい。ごく数日前にも暴れたせいで右手の爪をはがしてしまい包帯を巻いているのが痛々しい。
しかしそんなこともお構いなく、目の前にいる別の教師につかみかかろうと手を振り回し、歯をむいている。
しばらくそうして暴れたあと、少女は不意にぼろぼろと涙をこぼす。
「もうやだ!かえりたい!おうちにかえる!かえる!うわぁぁぁ!!」
そうして泣き叫びながら、「かえる」を繰り返し暴れ続ける。疲れ果てて、気力を失うまで。
それが、ここに来てからずっと「うい」の毎日だった。
彼女を育てたのはr「羅刹」という種族だ。
その性質は極めて粗暴で、自分以外の他者について想像することをせず、思うままに生き、やりたいように暴れまわる。
ういの行動は、羅刹のままだった。しかし少女は闇堕ちしていない。闇に堕ちる必要がないのだ。彼女は彼女のまま、そして教え育てられたままに暴力と欲求を正しいものだと信じている。
なにより人の魂でありながら、その激情は羅刹のものよりも強い。内側に喰われるまでもなく、彼女は鬼の子供だった。
「いえ、時折…片鱗は見えます。鬼神変を使いますから」
ダークネス「羅刹」の力を引き出しながらも、心は人のまま。それは灼滅者としての十分すぎる素質だった。
しかし、危うい。いつ自分と「羅刹」の境目をなくし。闇へと転げ落ちるか。
「いっそ、処分してしまったほうが」
誰かがそんなことを呟いた。
PR