ままならない怒りとかんしゃくに、壁に叩きつけて、地面に投げ捨てて。
(物にあたってはだめよ。 ものだってぶたれれば痛いのよ。嫌なのよ。何も悪くないのに、ぶたれたりされたらあなただっていやでしょう? ぬいぐるみは嫌っていえないのよ )
そんな風に諭す大人はいない。
しかも、何も悪くないのにずたずたに引き裂かれ殺される。そんな光景を毎日のように見ていた。
自分が、自分より力ないものを虐げるのは。無力なものを虐げるのは、当然だった。
ただ、少女は何者も虐げたことはない。
なぜなら彼女はこの屋敷の中で最も力のない生き物だったからだ。
彼女の力でねじ伏せられるものは何一つなく。彼女の存在を許容しているのは、ただ羅刹という絶対者の気まぐれな寛容さだった。
そのくせ彼女はその寛容さに感謝などするわけもなく、当然のことのようにちょろちょろと羅刹と人の狭間を気ままに過ごした。
『彼』は、奥の部屋の。窓際が好きだった。
その部屋は、いつも暗くて。窓だけが明るい。
その窓枠に座って、外を見ていることが多い彼の足元で。拾い集めた小石を、カチリカチリと弾き合わせていた。
「石が好きか」
「すき。白くてすべすべなのがほしい」
沈黙。問いかけに意味はなかったのだろうし、答えた彼女もにゃぁと啼いたようなもので次ぐ言葉を求めていなかった。
証拠に、『彼』は彼女に視線すら向けていなかったし。少女も手元の石しか見ていなかった。
落ちた静寂に、彼女の遊ぶ石のぶつかり合う音だけが響いた。
ふいに、石遊びに飽きたのか少女が小声で歌い始める。幼い声で、うろ覚えの歌を歌った。
この娘の母は、娘のために歌うことを惜しまなかったのだろう。その歳にしては驚くほどの歌を知っていたし、歌うことに恐れがなかった。
「彼」はうるさい、とも言わずそれを聞いたあと。くだらぬ、とはき捨てた。
少女は気にしない。かちり、と石に石をぶつけた。ひとつが砕けたので顔をしかめた。そうして顔を上げると、珍しく『彼』がこちらを見ていることに気がついた。
部屋に戻り、くまのぬいぐるみを床にたたきつけた。
石はすべて庭に投げ捨ててしまった。と言っても、全部砕かれてしまったのでボロボロになったそれは、砂になって宙を舞った。
それだけでは飽き足らず、自らが唯一虐げられるものを床に。壁にたたきつける。
耳をつかんで、渾身の力でたたきつけた。
やがて、ばりと耳が破けて落ちた。見れば綿が出ていた。汚れて、擦り切れていた。
不意に、悲しみが襲って少女は声を上げて泣き出す。
破れてボロボロになったぬいぐるみを抱きしめて、大声で泣いた。自分でやったことの取り返しの付かなさに、怯えて泣いた。
大切なものだったのだと、気が付いたのだ。
―――ごめんなさい、と言ったのはこのときが覚えている限りで最初のこと。
誰も彼女を助けてはくれなかったのだけれど。
背後:スレでも何でもクマっていってたのに、なぜか文章では犬になっている残念orz
くまです、くまなんです。
何で犬って思い込んで書いたんだろうorz
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