空、まぶしい。
ういはどこで暮らしていたのか。
聞かれたけど…どこなのかしら?
北海道であるのは確かだけど、先生たち(この場合彼女を保護した学園関係者の大人)は、一度もあの家に連れて行ってくれなかったわ。
山の中。
崖。青い池。
家は古い。どこもかしこも、古い。
冬はとても寒くて、夏は涼しい。空が青い。
白い木肌の木々。
鹿は、人を怖がらない。夕方になるとたくさんたくさん現れる。
熊は、気難しい。でも、そっとしておけばいい。彼らには彼らのルールがあるの。
春の初めの雪解けで、水芭蕉が咲く。蕗はあっという間に、地面を覆いつくす。
葉陰で見えない、鈴蘭たちの香りと言う存在感。
秋には雪虫たちが、吹雪のように舞い。冬には痛いほどの静寂が、死のように降り積もる。
そんな、山の家。
そこから、連れ出されたあとは、札幌の南のほうにある療養施設にしばらくいたわ。
病院とか、そういう感じの場所。
そのあとは、学園の施設で。いろんなことを勉強した。
嫌な事があっても、かんしゃく起こさずにいられるようになったし。痛いってことも覚えた。
自分以外の誰かと、一緒に居れるようになった。
あの家に、誰か…帰ってきたのかしら。
帰ってきたのなら、あの家は今もあそこにあるのだと思う。あの、薄暗い部屋の窓辺に、行き場をなくしたように腰掛ける姿が、あるのだと思う。
帰ってきていないのなら、家はきっと壊れているわ。
人の住まわない家は、雪の重さに、潰されるのだから。
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