「……パパ、ママ」
「死んだ」
少女にも届かない、稚い子供の声に鬼はあっさりと告げた。
「なんで?」
「殺した」
「ころすってなぁに」
「命を奪うってことだ」
「うばうってなぁに」
「勝手にするってことだ」
瞬きもできず、両親を見つめているくせに、子供の声は静かだった。涙で潤むこともない。ただその小さな体がふるふると震えている。
壊れて笑い出す寸前、なのかと思えた。だとすれば興ざめだ。壊すのは好きだが、勝手に壊れるものには興味がない。
「お前も殺すか」
興味の失せた声に、初めて彼女はこちらを向いた。その目は、先ほどまでの薄茶とは違い。真朱にきらきらと輝いていた。
「へんなの!」
全身で叫んだ少女は、間違いなく怒っていた。壊れるでも、泣くでもなく。ましてや内側の「闇」に食い破られることもなく。ただただ、その場で地団駄を踏みながら自らの魂すら焼き尽くしそうなほど徹頭徹尾、心の底から怒り狂っていたのだった。
そして自分の内側にある言葉の中から、もっとも「納得いかない」を引きずり出してたたきつけるように叫ぶ。
彼女は怒っていた。全身で、自らの存在をかけて。この事象が気にくわない、納得いかないと叫んでいる。正気どころの騒ぎではなく、目の前の絶対者に向けて幼いながら真っ向睨みつけて、まったくこれ以上ないほど正当に。ごもっともに怒っている。
許さないとか、何でとかではない。理由や理屈を述べられたら、鬼はそれごと叩き潰しただろう。しかし、彼女はそんなもの全てを吹っ飛ばして、純粋にただ、怒っているのである。
そしてその叫びで地団駄で。この陰鬱な死の情景を、滑稽なまでにぶち壊しにしてしまう。
証拠に、鬼のほうが呆れて彼女を見ていた。
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