雪。
雪。
雪。
木枠に雪が降り積もる。
私は飽きずに、それを見て。寒いと両手に息を吹きかけた。
大体のところ、私はほっぽらかしにされていて。
従者となった男女(これまた、老若男女様々だ)が、時折暇を潰すようにかまってくれた。
羅刹の我儘に振り回されるのが常だから、従者たちは時に殺伐とすさんでるけど私が暴力を振るわれたことはない。
私の暴力を振るうことができるのは羅刹だけだった。私を「うい」と呼ぶのも。
* * *
その日の私は、羅刹の従者の女がくれた小さな焼き菓子を粉々にするのに一生懸命だった。
甘い焼き菓子で、雪のように白い砂糖がかかっていて。食べるとほろほろ口の中で崩れた。たぶんそれは、従者の女が主に献上するものだったのか。私にくれたのはおこぼれだったのだろう。
ひとつ、ふたつ、口にして。
その甘さと口解けのはかなさが気に入って、それならば誰か一緒に食べてくれる相手を探した。
でもそんな相手はいやしないわけで、私は結局。裸足で庭先に出て、舞い降りる鳥たちに撒くためにその御菓子を粉々にしていた。
3つほど粉々にして、庭先に撒く。
それに気がついた鳥たちが寄ってくるのに満足して、私は縁側に座りゆらゆら足を揺らした。
もうずいぶん寒くて、裸足でいるのも嫌だったけれど。何かを履く、という記憶は遠すぎて。
私はこの屋敷にいる間は、ずっと裸足で育った。冬に裸足で雪の上を歩くことは……一度やってみて十分に懲りた。
だから冬がきたら、外を出歩かなくなる。
せいぜい軒先に来るうさぎたちに、ひょいと食べ物を投げるくらいの楽しみしかない。
屋敷にいる人はまちまちで、羅刹の気まぐれで増えたり減ったりした。
顔ぶれが変わるのは、羅刹が飽きて殺してしまうから。
たぶん今日もどこかで、いつものようにイライラしながら。猥雑な人の街など見るに耐えないとかいいながら、それでも猥雑な街の暗がりを好みながら、退屈を紛らわす何かを探していることだろう。
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