少女は笑っている。
楽しくて楽しくて仕方がない。
その笑いも、声も気配も。清廉で迷いもない。
そう、昼の公園で泥遊びをする子供と変わりない。
キラキラ瞳を輝かせ。頬を高潮させて心底楽しそうに。
大きな鬼の手を持って、何かの生き物を地面にたたきつけて。
跳ね上がった血が、泥はねであるかのようにかまいもせず。そう、ばしゃりと跳ねたそれすら面白いというようにけらけらと笑っている。
彼女は、血と泥の区別が。ヒトと泥の区別がつかないのだ。ヒトゴロシと泥遊びの区別がない。
だから、蟻を踏む子供のように。蝶の翅をむしる子供のように。
人の手足をむしってみる。なぜ人が動くのか。どこに命が、魂があるのかが不思議でたまらない。
なのに、どんなにしてもぎゃぁぎゃぁと泣き叫ぶだけで、ちっともわからない。そしてかんたんに死んでしまう。がっかりする。
「つまんない…」
思い切り遊びたくても、ぜんぜん弱くてつまらない。
大きな瓦礫の上に腰掛けて、ぷらぷらと足をゆする。
人間の世界は雑多で、時々おもしろいけど。すぐにうるさく責め立てられるから腹が立つ。そのくせ、ちょっとするとすぐに死んでしまうから。何だがかっがりする。
「つまんなぁい……」
なんだか泣きたくなってしまう。
自分を「うい」と呼んでくれていたヒトはどこに言ってしまったんだろう。
おんなじ羅刹だったのに。
(「あいつ」のせいだわ。あいつがいつまでも「うい」のふりして、いつまでもどかないから。今だって、消えもしないで!早く早く早く死ね!弱くてぜんぜん役立たずの、泣き虫のくせに!!醜いヒトのくせに!!)
がん!と少女は足元の岩を蹴りつぶす。いらいらと爪を噛んだ。
そう、すべては『うい』のふりをしてたあの人間のせいだ。腹が立つ。
「……そうだ!」
不意にぱっと表情を明るくして、少女は手を打つ。
「『あいつ』の仲間とあそぼう!」
そもそも、『あいつ』のせいで『うい』は羅刹とはぐれたのだから。「うい」がお返しに「あいつ」の仲間と遊んだっていいはずだ。
「しゃくめつしゃっていうんだっけ?」
普通の人間よりも数倍に強い。きっと遊べば楽しいはずだ。
「そうだ。「うい」は、「あいつ」よりずぅっとつよいもの。きっとしゃくめつしゃだって、「うい」のほうが好きになるはずだわ」
そう、そうやって「あいつ」から仲間を奪ってやるのだ。そう、もしかしたら自分と同じように「羅刹」になるものもいるかもしれない。
そうすれば、きっと一人じゃなくなって楽しくなる。
少女は胸を押さえて頬を赤らめる。ドキドキした。楽しくなって、足取りが軽くなる。一転機嫌のよくなった少女は、踊るような足取りで。この瓦礫の廃墟を出て行く。
「どうやったらいいかなぁ?ヒトゴロシいっぱいすれば、でてくるのかな?」
ひらひらと、血に染まったスカートを翻し。邪魔な瓦礫の上を、身軽に飛び越えてゆく。
「それとも、何だっけ?あいつの居場所に行けばいいかな?ふぁ…らら?」
くすくす。
胸の奥底、魂の核の中で泣き叫ぶ声を聞きながら。羅刹の少女は、ぴょん。窓から外に飛びだした。
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